司法試験に合格したあとって、実際どうなるの?という話をしましょう。
身近に司法試験に合格した人がいない限り、意外と知る機会がないですよね。
司法試験に合格したあとは、まず、「司法修習」に行くことになります。
司法試験は国家試験なのですが、これに合格しただけではすぐに仕事に就けません。「司法修習」という国が行うトレーニングを経て、その修了試験に合格してはじめて仕事(裁判官・検察官・弁護士の法曹三者)に就くことができるのです。
この、司法修習ですが、
とにかく楽しいっ!!!んですよー。(あくまでも個人の感想です。楽しくないよ!っていう人もいるようです。)
お給料もらって、楽しくて、ためになる。こんな夢のような研修制度あるのかっていうくらいです。合格のご褒美的なものなのかも?!です。
合格後の大まかな流れにそって、ご説明しましょう。
司法修習に申し込む
司法試験の合格発表後、すぐに必要書類を集めて司法修習採用選考に申し込みます。
名称は「採用選考」なのですが、採用されなかったという話は身近に聞いたことがありません。不採用があり得るとすると、何か過去に重大な犯罪歴がありそれを偽って申告したとか?国家転覆を謀って裁判所を爆破して捕まったとか?ちょっとわかりませんが、普通に暮らしてきた人ならおそらく採用されます。
司法修習採用の際に一番ドキドキするのが、実務修習地の決定です。
司法修習は、下記のようなスケジュールで行われます。選択型修習と集合修習の順番はグループによって異なりますが、いずれにしても、合計約3ヶ月を和光市にある司法研修所(グレー)で、合計10ヶ月を実務修習地(黄色)で過ごすことになります。
人生のうち10ヶ月を過ごすわけですから、どこに配属されるのかが大いなる関心事となります。この10ヶ月間を、知っている街で過ごすのか、行ったことのない地方で過ごすのか、大都市で過ごすのか、過疎地で過ごすのか、まったく違う体験になるわけです。
申し込みの際には第6希望まで記載します。
修習地は、1群(希望者の多い修習地)、2群(普通の修習地)、3群(あまり人気のない修習地)というように分類されています。
1群と2群は2つずつしか希望を出せません。3群からも2つ以上は選ばなければならないことになっています。
ざっくりとですが、1群は、東京、横浜、千葉、大阪、福岡、仙台などの都市部で、2群は、それらに準ずる場所になります。3群は、少し僻地っぽいところとなります。
本当にどこでもいい!という人の場合は、希望地を特定せず「一任」という書き方もアリです。
第一希望が通るのか、はたまた第6希望になるのか、あるいは希望地すべて外れるのか、ワクワクドキドキなのです。
実際に全国各地にバラけていった友人らの話を聞くと、それぞれの修習地にそれぞれの良さがあるようです。
修習地がどこであれ修習生にはみなさんとても優しくしてくださるのですが、それにしても土地柄というのがあります。地方の街で修習生の人数が少ないと、より大事にしてもらえるというか、その土地の人達ととても親しく触れ合う機会があるようです。
すっかり修習地を気に入って後に修習地に移住するなんて話も聞いたことがあります。
大都市だと、修習生の人数が多く、なかなか土地の人と親しくなるというようなことはないと思います。
それから、気候も全然違いますよね。釧路修習か那覇修習かではまったく生活が違うはずです。
同じ修習生でも、実務修習地がどこになるのかによって全然違う10ヶ月間を過ごすという点が、司法修習の面白いところなのです。
うわさでは、沖縄県の那覇はとても人気があるみたいです。一生に一度くらいは離島、しかも南国に住んでみたい!っていう気持ち、誰しもありますよね。アフターファイブや週末の過ごし方を考えても、確かに那覇は楽しそうです…那覇修習の人たち、うらやましぃ。
そんなわけで、
もし、生活拠点に制約がないのであれば、思い切って未知なる場所を希望してみるのがよいです。自分とは縁がないところ、一度は行ってみたかったところ、すごーく遠いところ、などなど。今しか住めないという場所で10ヶ月刺激的な日々を過ごすのはきっと素敵な経験となると思います。素敵な出会いもありそうですよね。
子育て中の司法修習生の場合は、10ヶ月家を空けるということが難しいですよね。
私も…残念ながら小さい子供がいましたので、1人で遠くの街に行っちゃうわけにはいきませんでした。そのため、自分の住んでいる場所に一番近い大都市の実務修習地を希望し、そこに決定されました。
小さい子供がいるとか、介護している家族がいるとか、そういった事情があれば実務修習地の決定の際に汲んでもらえます。
以上は実務修習地の話です。残りの期間は、埼玉県の和光にある司法研修所で過ごすことになります。和光には寮がありますので、和光まで通うことが難しい場合は入寮します。首都圏に住んでいる場合でも、和光までの通所困難生や空き状況によっては入寮できます。
私は、2ヶ月間だけ子供を家族にお願いして和光の寮に入寮しました。狭い部屋ですが、毎日朝から晩まで仲間とワイワイできてすごく楽しかったのを覚えています。学生時代の再来みたいな、青春っぽい感じでした。協力してくれた家族と子供には感謝しています。
司法修習スタート!
実務修習地も決まり、晴れて修習生になったら、司法修習がスタートです!司法試験に合格した直後のフワフワした気持ちでいっぱいの集団なので、まちがいなく楽しいです。
修習生は、実務修習地に応じてクラス分けされます。それぞれのクラスには、担当教官が5人(民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護)つきます。
クラスメイトの全員とはいきませんが、特に実務修習地が一緒の仲間は修習期間中ずっと一緒なので確実に仲良くなります。
いろいろと情報交換をしたり、遊びに行ったりするのはもちろん、付き合い出す人たちも出てきたりして、アオハル感を楽しめますよ!
社会人を経てから司法試験に合格した人は、他の修習生よりも年齢が上となりますが、年齢で異なる扱いを受けることは基本的になく、みんな仲良くしてくれます。
そして、修習で仲良くなった友人たちとは、弁護士になった後もずっ〜〜と仲良しです。
私も、弁護士になってかなり年数が経ちますが、いまだに定期的に同期で集まっていますし、仕事の相談なども同期にすることが多いです。
なお、修習生は準公務員という扱いです。国からお金をいただいて学ばせていただくので、専念義務があります。それから、実際のリアルな事件を扱うので、守秘義務があります。
【和光の司法研修所での導入・集合修習】
和光ではクラスごとに、担当教官がそれぞれの担当科目の授業を行います。
修習生は司法試験のためにたくさん勉強をしてきたわけですが、司法修習での勉強はちょっと違う勉強です。もっと実務寄りです。実務家がどういう思考プロセスを経て具体的な事案の結論を導いているのか、プロセスをトレースするような授業イメージです。
授業では、「白表紙」(しらびょうし)と呼ばれるテキストが使われます。
白表紙だけではなく、だいたいは先輩たちから代々引き継がれているデータみたいなものが回ってきてそれを参考に勉強したりします。わからないことは優秀な友達に聞いたり、コツを教えてもらったり、修習生活は実はコミュニケーション能力が問われるものだったりします。
最終的には「二回試験」と呼ばれる修了考査にパスしないといけないので、情報収集の上で効率よく勉強を進めましょう。
【実務修習地での分野別修習】
実務修習地では、まず分野別修習が行われます。
実際に現地の裁判所の民事裁判官室や刑事裁判官室に配属され、リアルな事件を勉強させてもらいます。裁判官と同じように、資料を見て、議論をして、起案をします。法廷のバーの中にも入れます。
検察研修では、座学もありますが、実際の事件の取り調べをさせてもらい、事件現場に行くこともあります。
弁護修習では、法律事務所に配属され、先輩弁護士にひっついて毎日の仕事を見させてもらいます。
いずれも、OJTで学ばせていただく貴重な機会ですし、進路を迷っている人であればOB訪問的な位置づけにもなります。修習でお世話になった法律事務所に就職が決まるということもあります。
この実務修習では、
起案などの能力はもちろんですが、それ以上に、
・ 裁判官
・ 裁判所書記官
・ 検察官
・ 検察事務官
・ 弁護士
・ パラリーガル(弁護士助手)
・ 弁護士秘書
といった法曹関係者全員といかにうまくコミュニケーションをとれるかが問われるように思います。
これまでの、机に向かって孤独な勉強を続けていた生活からは一変し、自分の全人格が360°問われるような経験をするのが分野別修習なのです。
【実務修習地での選択型修習】
実務修習地では分野別修習の後、選択型修習が行われます。
選択型修習というのは、文字通り、修習生が自分の興味のある分野の修習を選択するという形式の修習になります。分野別修習でお世話になった法律事務所に籍を置かせてもらいつつ、プログラムに参加するような形式になっています。
裁判所・検察・弁護士会が企画するプログラムがあり、希望するプログラムに応募します。全国プログラムと、個別の実務修習地のプログラムに分かれていてかなり充実しています。1日だけのプログラムもあれば、2週間くらいのプログラムもあります。具体的なイメージとしては、裁判所で特定の分野の部署にて勉強させてもらうプログラムや、官公庁・自治体でお世話になるプログラム、国際機関のプログラムなどがあります。それ以外にも、一般企業の法務部や大手法律事務所で学ばせてもらうプログラムがあります。刑事施設・福祉施設を訪問したりするものもあります。
いずれにせよ、選択型修習の2ヶ月をどのように過ごすのかは本当に人それぞれで、自分で過ごし方を作り上げるようなイメージです。
司法修習生考試=二回試験
司法修習で一番大事なのは、「二回試験」に受かることです。これに受からないと、法曹三者として仕事を始めることができません。「二回」という俗称は、「司法試験に受かったのに、また受けさせられる試験」という意味が込められているかと思います。正式名称は司法修習生考試といいます。
二回試験は、
・ 民事裁判
・ 刑事裁判
・ 検察
・ 民事弁護
・ 刑事弁護
の5科目について実施されます。
1日1科目、試験時間は7時間半!という長丁場です。
時間内にちゃんと書き終えることが大事で、途中答案はNGです。
回答のボリュームが大きいので、最後は紐で縛って冊子状にして提出するのですが、この紐をうまく結ばないといけないとかなんとかいろいろ都市伝説がありますが、最近は紐の重要性は薄れているようです(笑)。司法試験自体がCBT(Computer Based Test)になる時代なので、二回試験も近くそうなるはずです。
5科目、7時間半!?というとびっくりしちゃうと思いますが、実はこの二回試験の合格率は相当高いです。ほぼ100%です。基本、落ちません。
とはいえ、毎年、ほんの数人とか十数人とかの不合格者は出ます。
なので、修習生はみな必死に勉強をします。さすがに、1%の不合格者になるのは不名誉ですからね。
実は私の親しい友人も、落ちました。
合格するとすぐに就職なので、「◯◯さん、落ちたってよ。」ということは聞いていても、みんな自分の新しい職場に適応することで手一杯で不合格者をフォローする暇はありません。
私も、その友人がその後どのようなプロセスを経たのかは詳しく知らないのですが、友人は1年後の考査を再受験し無事に合格。今では都内の法律事務所で弁護士をしています。落ちたときの話を根掘り葉掘り聞くわけにもいかず、実際にどのような1年間を過ごしたのかはよく知りません。
二回試験に合格すれば、本当の意味で、司法試験合格です。裁判官・検察官・弁護士として仕事をする資格を得られるのです。裁判官・検察官は公務員なので、採用される必要がありますが、弁護士の場合は就職できなければ最悪自分で開業してしまえば仕事をすることができます。
今のところ司法試験合格資格の更新制度はないので、すごーく悪いことをして弁護士会から除名されたりしない限りは一生法曹として仕事をすることができます。
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