司法試験に合格し、司法修習生になったら、就職先について考えなければなりません。
「若くない普通の人」の現実と就職活動
司法試験に合格したときの喜びは、人生の大きな到達点です。長年の努力が報われ、友人や家族、先生から祝福を受ける瞬間は、本当に格別なものです。「これからの人生はバラ色だ!」と胸を張りたくなる人も少なくないでしょう。
しかし、その喜びも束の間、すぐに冷静な現実が目の前に立ちはだかります。
――そう、就職活動です。
「合格したんだから、どこかにすぐ就職できるだろう」
そう考える人もいるかもしれませんが、実際にはそれほど甘くありません。とくに、特別な経歴もなく、年齢的にも若くない「普通の人」にとって、就職活動は思い描いた以上に厳しい現実を突きつけてきます。
弁護士就活市場の冷徹な現実
弁護士の就職市場は、若さと実績に大きな価値が置かれる世界です。
とくに大手法律事務所は「在学中合格」「東大出身」「元官僚」などの肩書を持つ人材を好みます。20代前半で弁護士登録を済ませる若きエリートたちが、就活市場の「主役」として君臨しています。
もちろん30代以降で合格する人も少なからずいます。しかし、その中には「元商社マンで海外経験豊富」「外資金融でキャリアを築いた」「医師資格や会計士資格も保有」など、すでに社会で強い実績を持つ人がいるのです。司法試験合格は彼らの経歴に“華”を添えるものであり、事務所にとっても採用するメリットが明確です。
では、私のように「若くない」「特別なキャリアもない」人はどうでしょうか。
率直に言えば、弁護士就活市場における序列の中で最下層に位置します。厳しい言い方ですが、エリートが溢れる市場で、わざわざ「普通の中年合格者」を採用する理由は乏しいのです。
それでも就職はできる
ただし、誤解しないでほしいのは「就職できないわけではない」ということです。
司法試験に合格し、弁護士資格を有している以上、どこかしらに需要はあります。問題は、条件や環境を選ばなければならない という点です。
せっかく大きな投資をして資格を得たのですから、ブラックな環境や十分な研修を受けられない事務所でキャリアを始めてしまうのはもったいない。だからこそ、「若くない普通の人」こそ戦略的に就職活動を進める必要があるのです。
就職活動の戦略 ― ツテを頼れ!
私が最も強調したいのは、ツテの力を最大限に活用すること です。
法科大学院の先輩、教員などに現役弁護士がたくさんいると思います。その方々と仲良くして(あるいは仲良くなくても、突撃して!)「就職先の斡旋をお願い!」するのです。 親戚でも遠い友人でもいいでしょう。現役の弁護士という人を徹底的に探して、突撃して採用OR斡旋してもらうのです。
弁護士というのはとにかく、人と人の横のつながりが大切な業界です。修習の同期もそうですが、先輩や後輩とのつながりも大事。情報を交換し合ったり、人や案件を紹介したり、仕事を手伝ってもらったり…ということが弁護士人生を通して続くのです。 なので、もしあなたが直談判した弁護士が直接採用してくれないとしても、知り合いの弁護士に声がけをしてくれるので、何かしらご縁をいただけると思います。弁護士は弁護士の知り合いがたくさんいるものです。人脈をたどって紹介を受けることが、最も確実な就職ルートです。
私の知り合いは、「そういえば中学のクラスメートの◯◯くんのお父さんが弁護士だったなあ」というツテで、全然親しくもない◯◯くんに久々の年賀状を送り、その勢いでお父さんの事務所に突撃して採用してもらいました。
それから、実務修習でお世話になった事務所にそのままお世話になるというケースも多いと思います。実務修習がいわば試用期間のような期間になるので、お互いに納得しての採用ですね。 出身大学の同窓会団体を通じて就職先を見つけた人もいます。
郊外・地方に目を向ける― 競争の激しい都心を離れるという選択肢
司法試験合格者の多くがまず目指すのは、やはり東京・大阪といった大都市圏です。大手事務所の採用も集中しており、案件の数も豊富ですから、キャリアを積む環境として魅力的に映るのは当然でしょう。
しかし、現実として都心部はすでに弁護士で溢れかえっています。特に若くない合格者にとっては、熾烈な競争の中でエリート層と同じ土俵に立つことになり、不利を跳ね返すのは容易ではありません。
その一方で、少し視野を広げて郊外や地方を見てみると状況はまったく異なります。地方では「弁護士過疎」と呼ばれる現象が深刻であり、人口比あたりの弁護士数が極端に少ない地域が多く存在します。こうした地域では、若さや派手な経歴よりも「実際に働いてくれるかどうか」が最優先されるため、「若くない普通の人」にも十分な需要があるのです。
女性弁護士の偏在という現実
例えば、2024年4月時点で全国の女性弁護士は9,208人。そのうち、なんと半数以上にあたる5,001人が東京都の弁護士会に所属しています。つまり「女性弁護士は東京に集中し、地方には極端に少ない」というのが現実です。
具体例を挙げると、徳島県弁護士会の登録弁護士数は92人ですが、そのうち女性弁護士はわずか7人。割合にして7%台にとどまっています。
この数字が示すのは、地方における「女性弁護士へのアクセス格差」です。もし依頼者が「女性弁護士に相談したい」と望んでも、選択肢が非常に限られてしまうのです。
地方における女性弁護士の社会的ニーズ
「女性だからできる仕事」は存在しません。法律上の職務権限は男女に差がなく、どの弁護士でも事件を受任できます。
それでも、依頼者の側からは「どうしても女性弁護士に相談したい」というニーズが確実にあります。
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性暴力やセクハラ被害の事件
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デリケートな夫婦問題(性生活や特殊な性癖に関わる離婚原因など)
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マタニティハラスメントなど女性特有の労働問題
こうした案件では、被害者や相談者が男性弁護士に話すことに心理的抵抗を感じるケースが少なくありません。特に地方では女性弁護士の数が限られているため、希望してもマッチングできず、司法サービスを諦めざるを得ない依頼者もいるのです。
そのため、日本弁護士連合会(日弁連)は「女性弁護士の偏在解消」に向けた支援制度を設け、対象地域で開業する女性弁護士を後押ししています。
地方就職がもたらすキャリアの広がり
「若くない普通の人」が就職を考える際、地方に目を向けることは単に採用されやすいというだけでなく、社会的意義のある選択にもなり得ます。
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社会的ニーズが大きい
地方では弁護士の絶対数が不足しており、依頼者からすぐに案件が舞い込む環境が整っています。 -
幅広い分野を経験できる
大都市では分野が細分化されていますが、地方では一般民事から刑事、家事、企業法務まで幅広く担当することになります。弁護士としての総合力を磨くには最適です。 -
地域社会への貢献
特に女性弁護士の場合、地域の女性や子どもたちにとって「身近に相談できる存在」として大きな意味を持ちます。男性弁護士でも、地域に根差して活動することで強い信頼を築きやすいのが特徴です。
都心部ではどうしても「学歴」「年齢」「経歴」で序列がつきやすく、普通の合格者は後回しにされがちです。
しかし、地方に行けばその図式は大きく変わります。弁護士そのものが不足している地域では、年齢やキャリアの派手さよりも「実際に地域で活動してくれるか」が何より重視されるからです。
つまり、「若くない普通の人」にとって地方は決して“妥協の選択肢”ではなく、むしろ“積極的なキャリア戦略”になり得るのです。
公開求人に応募する場合の注意
ツテ就活を激推ししてきましたが、求人情報を見て応募するという方法ももちろんあります。
ただ、ブラックなボス弁護士・法律事務所もないわけではないです。法律家なのにブラックって…?!とびっくりでしょうが、ボス弁護士のキャラクター次第で事務所の雰囲気やルールは大きく異なるので結構一か八かなところがあります。
一般企業のように被用者として手厚い保護を受けるというわけでもないですし。 集客や報酬算出の方法が強引な事務所で性に合わないというようなケースもあります。売上のノルマがあるような事務所もあります。
なので、公開されている求人情報を見て応募する場合は、事前にその事務所について調査を尽くしたうえで、十分に疑問や不安を解消してから内定を承諾しましょう。
弁護士の就労形態を理解する
就職活動を進めるうえで知っておくべきなのは、弁護士として法律事務所に就職するということがどういうことなのかです。
一般的にあまり知られていないと思いますので、弁護士の就労形態について少し触れておこうと思います。
昔ながらの法律事務所
多くの昔ながらの法律事務所は、実は「個人事業主の集合体」にすぎません。
「◯✕法律事務所」と看板を掲げていても法人格はなく、ボス弁護士(パートナー弁護士)が個人事業主として他の弁護士を抱えている形です。採用された弁護士も個人事業主として開業届を出し、確定申告を行う必要があります。
報酬体系や経費負担、個人受任の可否などはすべてボス弁との契約次第。国民年金や国保に加入するのが基本ですが、条件によっては「弁護士国保」という制度を利用でき、負担を軽減できます。
弁護士法人
一方で「弁護士法人」と名のつく事務所は、株式会社に近い仕組みを持っています。
雇用契約を結べば厚生年金や健康保険に加入でき、福利厚生も比較的安定しています。全国展開するような新興事務所が多く、サラリーマン的な働き方に近いのが特徴です。
弁護士法人に努めている友人から聞いた話では、組織としてもしっかりしていて、営業ノルマがあったりする事務所もあるようです。
まとめ:就職は「戦略」と「縁」
「若くない普通の人」にとって司法試験合格はゴールではなく、スタートラインです。
厳しい就活市場において、特別な武器を持たない以上、戦略的に動くこと、そして人との縁を大切にすることが何よりも重要です。
弁護士人生は就職先で大きく変わります。最初の事務所で出会う人々や経験が、その後のキャリアを左右します。だからこそ、「若くない普通の人」は自分の弱点を正しく理解したうえで、人脈を頼り、時には郊外や新しい形態の事務所に目を向ける柔軟さを持ちましょう。
司法試験に合格できたあなたなら、必ず活躍の場は見つかります。大切なのは「自分に合った場所を探す努力」を惜しまないこと。資格を得た今こそ、現実を直視しながら次の一歩を踏み出すときです。
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